夏を殺したクラムボン
三毛の猫が天井に映った。
その三毛猫はだらしなく舌を垂らして倒れ、本体から切り離された前足や尻尾が周りに散乱している。現場にはすでに血の色はなく、強い雨で流された後だった。
膝ほどの高さの草に遮られた場所。
闇を灯した眼窩が周を見つめる。
あれは、いつのことだっただろうか。
周は立ち上がり、シワの寄ったスカートを叩いて整えると机の前の椅子に座った。綺麗に整頓された棚からルーズリーフの束を抜き出し、1枚を目の前に広げる。
鉛筆立ての中から淡黄色のシャープペンシルを持ち、右肩上がりの字を罫線に添わせて走らせた。
『小動物を殺す目的
1.ストレスの解消
2.好奇心
3.その他
浜田殺害事件との関係
1.同一人物の犯行
2.別人による犯行
3.その他
2年4組、疑わしい人
1.真木……』
シャープペンシルを止めた周は書きかけの文字を見つめ、静止した。
朝、成海に言われた言葉が(そんなの、ただの被害妄想だ)思い浮かぶ。
周は無表情でルーズリーフを手に取り、力を込めて縦に裂いた。何度も紙を破り、重ねた束が千切れなくなると数枚ずつ引き裂いていく。
紙は周の手の中で細やかな欠片になり、手のひらから溢れたものが机の上に散らばる。周は据えた目を紙片に向けながら口を開く。
「……犯人は、誰なの」
周は無数の紙片を片手に移動させ、机のそばのゴミ箱に力任せに叩きつけた。
大量の紙吹雪が辺りに舞い、部屋を汚す。
唐突に、灰色のわら半紙が脳裏を染めた。
「……クラムボンって、いったい、なに?」
汗で湿ったセーラー服のまま、周は真っ白なベッドに倒れ込む。黒い髪と紺色のスカートが白いシーツに映えた。
周は、深淵の眠りに落ちていく。