夏を殺したクラムボン
扉が開かれ、沢田が明るい顔を覗かせた。
「おはよう、みんな。明日が終業式だな。ラスト1日、頑張れよ」
クラスメイトたちがページをめくる音でさえ異常なものに思え、読んでいる小説の内容が頭に入ってこなかった。あるページを開いたまま、周は読書を続けるふりをして成海を盗み見る。
先ほどのチャイムで起きたのか、成海は窓に寄りかかり、だれた仕草で小説に目を落としていた。半分ほど目を閉じ、ひとつ欠伸をする。
噂のことを知っているのか、彼はいつもと変わらない素振りで本を読んでいた。
……なぜ突然こんな噂が流れたのだろう。私のときと同じように、きっと誰かが流したデマなんだろう。
でも、どうして成海が?
朝の読書時間の教室は昨日とは違い、沢田が紙にボールペンを走らせる音が聞こえるほど静かだった。
……噂話の元を辿っていけば最初に噂を広めた人物がわかるだろうけど、みんなが私に教えてくれるとは思わない。
不登校だった私は、2年4組のクラスメイトの名前すら知らない。
あとで直接成海に訊こうと考え、周は意味を持たない文章の羅列を追った。
数分後のチャイムで全員が一斉に小説を机の中にしまいこみ、前を向く。冷房が効いてきたのか夏の朝の熱気は消え、冷え冷えとした風が室内をめぐる。