夏を殺したクラムボン



荒い息が耳に届いたのか、成海は顔をこちらに向け、本を閉じた。学校で指定されているリュックの中に小説を戻し、代わりにA4サイズの封筒を緩やかに持ち上げる。



成海の前に着く頃には周の息は粉々に乱れ、汗が洋服をぐっしょりと湿らせていた。



「別に、そんなに急がなくて良かったのに」

「……普通は、急ぐ、から」



無意識に髪を手ぐしで整え、周は成海の持つ封筒に向けて手を伸ばす。成海は無表情で周に封筒を渡し、手の甲で額を拭った。



深く息を吸い、息を整える。



「ありがとう」



1度目を見つめ、周はその場から立ち去ろうと踵を返し、足を運ぶ。すると、背中から、成海の声が降った。






「なんで死にたいの?」






ひび割れるように、空気が凍てついた。



足が止まり、周は唇を噛みしめる。



「なんとなく言っただけだから。大した意味があるわけじゃ……」

「噂を聞いたことがある。葉月は養子だって」

「だから、なに」



封筒を持つ手に力を込め、周は振り返ると成海を睨みつけた。





「バカにしてるの?」





乾燥した音に合わせて封筒に皺が寄り、全身の筋肉がこわばっていく。しかし、成海は周とは対照的に真面目とも冗談ともつかない表情で、淡々と言葉の糸を縒り合わせた。



「別にバカにしていない。ちょっと似てるなと思っただけ。僕の母親も本当の親じゃないし」

「……え?」



ふっと、160センチの体から力が抜けた。



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