その背中、抱きしめて 【下】
満開だった薄ピンクの花が散って、若葉が芽吹いた桜のトンネルを2人でゆっくり歩く。
高遠くんはゆっくりと言葉を選びながら、私と離れていたこの1週間のことを話してくれた。
「仮入初日の帰り、ここで先輩待ってたら内村に捕まってさ。先輩と帰るからって言っても付き合ってるって言っても聞かなくて、大泣きしながら彼女にしろとかギャーギャー言ってきて収集つかなくなった」
(あー…)
その場面、容易に想像できる。
特に泣きながらギャーギャー言ってるのとか…。
「かといってそんな我儘に付き合ってるヒマないから徹底的に断ってたら、最後には柚香先輩に嫌がらせとか脅すとか、シャレんなんないこと言い出して。あいつ中学の時も気に食わない奴はとことんイジメ抜いて登校拒否させたりとかしてたから、ほんとにシャレになんないんだよ」
(あー…やりそう…)
申し訳ないけど、そういうことしそうなのが思いっきり顔に出てるもん。
「でもそんなの私平気だよ」
「平気じゃない。むしろ俺がそんなの嫌だし。あいつマジで陰湿で陰険な方法で徹底的にやるから。無傷じゃすまないだろうし」
…無傷じゃすまないって、ケガさせられたリするわけ…?
そりゃちょっと常識の範囲外でしょ。
「何とかそれだけはやめさせようとしたんだけど、最後に交換条件出してきたんだ。先輩にも手を出さないし、部員に平等に接することができないから入部もしないって。だけどその交換条件として、仮入期間中は自分のものになれって」
「…うわー…超自己中…」
嫌悪感で鳥肌が立った。
交換条件っていうか、そんなのもう脅し同然じゃん。
「俺だって嫌だったよ。けど、その条件飲まないと先輩が危ないし」
高遠くんは足を止めて私の方を向いた。
そして
「だけど、先輩。ごめんなさい」
って頭を深々下げた。