その背中、抱きしめて 【下】
「先輩…?」
慣れもしないことをして恥ずかしいのに、それでも抱きしめたこの温もりを離したくないと思ってしまう。
私、自分から何も行動しないで高遠くんに進む道を全部委ねてるから、こうやっていとも簡単に女の子が高遠くんに近づいちゃうのかな。
でも、他の子に近づかれるのが嫌で私がもうちょっと積極的に行動したら、そんなの束縛にぬっちゃうんじゃないのかな。
(積極的に行動なんてできないけどさ…)
「先輩、そうやって俺のこと繋いどいてね」
高遠くんが私の腰を抱き寄せる腕に力を入れた。
「俺を獲られないように」
私を抱きしめたまま耳の近くでそう言う高遠くんの声は、顔は見えないけど何だか嬉しそうだった。
「…嫌じゃない?」
「何が?」
「なんか束縛みたいじゃない?迷惑じゃない?」
いくらでも繋いでおきたいよ。
だって高遠くんはモテるもん。
私なんかより可愛くて綺麗な女の子いっぱいいるもん。
そんな子たちに言い寄られたら、って思うと…。
「いくらでも束縛してよ、俺は先輩のものなんだから。手を繋ぐのも抱きしめるのも声かけるのもいつも俺からだから、先輩俺のこと実はそんなに好きじゃないのかもとかたまに思うくらいだよ」
自分からそういうことするの、ただただ恥ずかしくて出来なかったけど、相手にとっては不安なになる材料になっちゃうんだ…。
(たしかに高遠くんから何もアクション起こしてもらえなかったら、私も好かれてるか不安になるかも)
「好きじゃなきゃこんなに不安にならない。こんなに辛くならないよ」
もう一度高遠くんをぎゅっと抱きしめた。