冷徹社長が溺愛キス!?
罪つくりなキス


「とにかく奈知が無事で本当によかった」


週明けの月曜の朝、出勤してきたばかりのロッカールームで、麻里ちゃんはバッグをしまってから私をムギュっと抱き締めた。

土曜日の登山の日。
麻里ちゃんは、頂上でいくら待っても現れない私を心配して、何度となくスマホに連絡を入れてくれたらしいが、私のほうはずっと圏外。
頂上は開けているから、電波は通じたようだ。

幹事と相談し、下山してひとまず待つことにしたものの、みんなが揃っても社長と私のふたりが戻らない。
集合時間を一時間オーバーし、いよいよ捜索の要請を出そうかと話し始めたところで、社長から幹事に連絡が入ったそうだ。
ちょうど私ひとりが寝入っていた頃だ。

麻里ちゃんは、あの社長とふたりでいる私のことを相当心配してくれていたみたいで、電話の代わりに彼女から何通ものLINEが入っていたことに気づいたのは、久万さんの別荘を出るときだった。
そこでようやく麻里ちゃんに電話を掛けて、ざっくりと経緯を話せたのだ。

本当なら、帰ってから彼女と会って話したかったが、久万さんの別荘でシャワーを借りたり近くを散策したりしているうちに遅くなり、自分のアパートに帰ったときには夜の七時を過ぎていた。
彼氏の桐谷さんとふたりでいる麻里ちゃんのところに、お邪魔するわけにもいかなかったのだ。

久万さんは、近くの駅から電車で帰ると言った私たちを、なんとそれぞれの自宅まで送り届けてくれた。

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