冷徹社長が溺愛キス!?
春といえ、山の気温は侮れない。
念のために持って来てよかった。
袋を二枚破り、眠りの邪魔をしないよう細心の注意を払いながら、社長の胸のあたりに一枚、胃のあたりにもう一枚を貼る。
本当は背中に貼ってあげたかったが、壁に阻まれて仕方なくだった。
窓の外は薄っすらと明るい。
腕時計を見ると、午前四時半だった。
雨は止んだようだ。
デジカメを持ち外へ出ると、春とは思えないひんやりとした空気に包まれた。
まだ濡れた地面。
雨が降ったあとだからか、空気がよけいに澄んでいるように感じる。
清々しさに大きく深呼吸をした。
散歩がてらゆっくり歩いてみると、さっそくムラサキツユクサを見つけた。
デジカメを構えて、写真に収める。
濡れた花弁が綺麗だった。
あっ、あそこに咲いてるのはニガナ?
山道から少し離れた急斜面に咲いているのを見つけて、小走りに近づく。
デジカメをズームにしてみたものの、どうしてもぼやけてしまう。
もう少しだけ近づければいいんだけど……。
そう思いつつ、カメラを構えながら慎重に踏み出したところで、濡れた地面に足が滑った。
「キャッ!」
声を上げたと同時に、ガッチリと掴まれた腕。
急斜面を石がコロコロと転がっていく。