冷徹社長が溺愛キス!?

「アホか!」


荒げた声に顔だけで振り返ると、社長が苦虫を噛み殺したような顔で立っていた。
彼が私の腕を掴んでくれたおかげで、この急斜面を転がり落ちなくて済んだのだ。


「……すみません」

「ったく、お前というヤツは、どこまで手のかかる女なんだ」


私を安全な場所まで引っ張ると、社長は腰に両手を当てながら大きな溜息を吐いた。

手をかけさせているつもりはないんだけど……。

効率重視の社長からしたら、私のやることなすことすべてが、彼の許容範囲を逸脱しているんだろう。


「本当に申し訳ありません……ありがとうございました」


深く頭を下げる。


「で、これは?」


社長の声に顔を上げる。
すると社長は羽織ったジャケットの前を開いて、胸を指差した。


「カイロです」

「そんなことは分かってる」


眉間に皺を寄せる。

< 83 / 272 >

この作品をシェア

pagetop