そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
私は、帰るタイミングを失っていた。
一通りしゃべった後、彼が、黙ったまま考え込むようにしたから、
「じゃあ、先に帰るね」とだけ言って立ち上がった。
「亜湖、俺、もう少し待つよ。でも、もう限界も近いけど」
「長井?」
「今じゃなくていい。よく考えて。そのうえで長谷川さんを選ぶなら、それを受け入れる」
「長井?」
「それじゃあな、気を付けて帰れよ」
彼は、またパソコンに向かってカタカタとキーを打ち始めた。
『誰が別れたいって言った?結婚はまだ考えられないって言ったんだ。どうしてそれが別れるって話になる?』
長井の言葉が、何度も頭の中をぐるぐるした。
あの時は、私の中で彼の存在が多くを占めていた。
ほとんど長井のことばかり考えて生きてた。今考えると恐ろしいほど自分のない私。
彼のいない人生なんてまったく考えてなかった。
そんな時、長井から転勤になったと告げられた。
私は、彼と離れることなんか、これっぽっちも考えていなかった。
彼は、私にどうするのかって聞かなかった。
ついてこいっていうに決まってると思い込んでたから。
『結婚は、すぐには考えられないって言ったんだ』
どういうこと?
逆に、私は彼に付いていくっていう選択肢意外考えてなかった。
――結婚ちゃんと考えてるから、ちょっと待て
そういいたかったの?
「あっ」
私、その時は、長井に自分の意見を否定されたショックで、彼の気持ちまで推し量れなかった。彼は、ちょっと待ってくれって言いたかったんだ。
急に転勤が決まって、どうしていいのか分からなかったのは、長井も同じだ。
私に言われて驚いたんだろうな。
住むところも、収入も私が仕事辞めた分まで一人で支えなきゃいけない。
今ならわかる。すぐに返事ができなかったことも、私の決断を手放しで喜べなかったことも。
それなのに、私は彼と話し合おうとせず、彼の言葉も確かめないで、一方的に彼が将来のこと考えてないって決めつけたんだ。
私が悪かったんだ。
彼の話を聞こうとしなかったから。
「ええっ?そんなの、あり得ない」
じゃあ、いったい何のために3年間苦労したの?
いったい、私その間何やってたの?