そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
彼は、一人で庭の方を見つめていた。
私は、慌てて長井のところまでやってきた。
「あの…ごめんね。ここで待っててくれたの?」
「うん。遅いから、待ちくたびれたよ」
浴衣に着替えた彼は、う~んと伸びをした。
「そんな感じね」
「ん」
首をくるっと回して、少し、疲れ気味に微笑む。仕事中に見せてくれる顔だ。
私は、荷物を片手に持って、さっと彼の前に手を差し出した。
「手をつないでもいい?」
「ええっ?」目が大きくなった。
「そんなに、驚くようなこと?」
「いや。そんなこと言われたことなかったから……」
「うそ……そうだっけ?」
手ぐらい、普通のカップルみたいに、つないでたと思うけど。
「ない。前に付き合って時も、手をつなぐのは俺からだった」
「なんて、ひどい女なの?でも、今さら手なんか握ってもうれしくないか」
「本当に。ひどいやつだな。それ、貸せよ。重いだろ持ってやるから」
かれは、私のバッグを見て言う。
「いいよ。じゃなくて。ここは、ありがとうか」
「なに?」
「甘える練習。とっても下手みたいね。私」
「今頃、気が付いたの?」
顔をくしゃっとさせて笑って言う。
ドキッとするよ。急にそんな風に笑うと。
「うん、甘えるって発想がなかったのかな。ほら、私って二人姉弟の長女でしょ?全部自分でやらなきゃって思ってたの」
長井がまた笑った。
「いいから、それ、貸せよ。荷物持ってたら、手握れないだろ?」