じれったい
「過去を絶ち切って、ようやく前を向いて歩くことができます」

玉置常務はそう言った後、私の方へと視線を向けた。

「矢萩さん、本当にありがとうございます。

あなたのおかげで、僕は全てを絶ち切って前を向くことができたんだとそう思っています」

玉置常務は長身の躰を折り曲げると、私に頭を下げた。

「そんな、私は…」

頭を下げられることになれていない私は、どうすればいいのかわからなかった。

「いいえ、矢萩さんのおかげです。

あなたが過去と向きあうように背中を押してくれなかったら、僕はこのままだったでしょう」

玉置常務は折り曲げていた躰を戻した。

「玉置常務…」

呟くように名前を呼んだ私に、
「莉亜」

玉置常務が私の名前を呼んだ。
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