じれったい
彼に名前を呼ばれたのは、2回目だった。

「初めて会った時からキレイな名前だと思っていました。

あなたのことを“矢萩さん”ではなく、“莉亜”と名前で呼びたいとそう思ってました」

玉置常務はそっと微笑むと、私に向かって手を伸ばした。

彼の手が私の頬に触れた。

――あなたに訪れるチャンスはあなたに幸運を与えてくれます

いつかの易者の言葉が私の頭の中に浮かんだ。

幸運を与えてくれると言っていたチャンスは、このことだったの?

玉置常務と出会うと言うのが、私の最大のチャンスだったの?

――間違っても、このチャンスを逃してはいけませんぞ

易者の言葉が頭の中で反芻される。

今しかないと、私は思った。

玉置常務に自分の気持ちを伝えるのは、今しかない。
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