恋色シンフォニー 〜第2楽章〜
「それと、他の人にはまだ言わないで欲しいんだけど」
圭太郎が再び私を見て、声をひそめて言った。
「僕の異動先、経営企画部だって」
「……そっか。すごい出世だね。おめでとう」
社長直轄の部署。数人の精鋭部隊だ。
素直にすごいと思う。
「寂しい?」
「……そりゃ、まあ……」
経営企画部はフロアが別。
会社じゃ、あまり会えなくなる。
圭太郎が困ったように微笑んだ。
会社では滅多に見せない、恋人の顔。
そして、手をゆっくり私の方に伸ばしてきた。
そのとき。
「ヤッホーお疲れー」
同期で総務の百合が入ってきた。
まあ、いつもいつも何てタイミングなのよ、あんたは。
ところが、圭太郎は構わず指先で私の髪に触れる。
ちょいちょい、ここ会社!
同期とはいえ、これは見られたら普通にまずいでしょう!
しかも。
頭に触れられている部分は、ほんの少しなのにもかかわらず、その感触と熱に、好きって気持ちが引きずり出される。
好きな人にこんなことされたら、仕事モードなんて、いとも容易く崩れてしまう。
まずい。