恋色シンフォニー 〜第2楽章〜
焦る私をよそに、圭太郎はゆっくり手を引っ込めた。
顔を仕事モードに戻し、にっこり笑いながら、
「髪の毛に、何かついてたから」
と言ってのける。
……この男……。
そして、口の動きで、『彼女は知ってる?』ときいてきた。
私は首を横にふる。
まだ言ってない。
圭太郎は、動揺がおさまらない私から視線を外し、自販機の前の百合に向かって言った。
「加賀美さん、僕達結婚するから」
「あら、おめでと」
百合が紙コップを持ってこちらにやってくる。
「同期で言ったの、加賀美さんだけだから」
「それは広めろということね?」
百合は同じテーブルの席に座りながら言う。
圭太郎は否定せずに、話題を変えた。
「来月からそちらのフロアでお世話になるから、よろしく」
「内示出たんだ〜。こちらこそよろしゅう。
経営企画部長から非公式にどんな奴かきかれたとき、頭よくて腹黒くて年上にも物怖じしなくて対人スキルが高い奴だ、って答えといたよん」
総務と経営企画は同じフロアだ。
それにしても、百合が圭太郎のことそういう風に見てたとは。
圭太郎は苦笑して言った。
「こっちの件はまだ口外しないでください」
「がってん承知」