恋のユクエ
父と娘
その後姫川さんとは変な空気になったけど

「まぁ今の発言は忘れて」と

区切りをつけられアイスコーヒーを一口飲むと

「親父の事なんだけど」

唐突に切り出された。

存在を知ってから2年以上経つけど、あまり話題には上がらなかっただけに驚いた。

就職活動に向けて最近は新聞に目を通すようになってあの人の記事や名前を見かけると、改めて現実とは思えない。

顔を見ても、いまいちピンとこないのが正直な感想だ。

「桜に会いたがってる」

姫川さんは私の気持ちを読み取ろうとしてるのか、じっと見つめてくる。

「それ本当ですか」

やっと絞り出した言葉に姫川さんは少し淋しそうな顔をした。

「ずっと言ってるよ。俺が桜と会った話とかすると、見たことない顔して聞いてる」

「そう…ですか。」

「成人式の写真、手帳に入れてる」

「え!なんで、だってあの写真…」

去年、成人式の写真を撮るときに少し揉めた。
姫川さんが着物を買ってくれると言い出したから。

必死で断って、姫川さんが出した条件が、姫川家が昔から付き合いのある写真館で撮影する事だった。

すごく古くからある写真館で、建物自体が歴史のありそうな、素敵な所だった。

一緒に行ったお母さんと二人で大はしゃぎして、用意されていた着物を着て写真を撮った。

綺麗なピンクの着物。

「桜色だね」

お母さんが目を細めて言ってたっけ。

でもなんで、あの人が写真を持ってるの?
家にある一枚だけだと思ってたのに。




「親父が関さんに頼んだらしいよ」

関さんってカメラマンの人だよね。
そんな勝手に渡しちゃうものなんだろうか。

「お付き合いのある写真館だからですか?」

「それもあるけど、関さんは親父の大学の先輩なんだ」

知らなかった。
それにしても勝手に人の写真を渡すなんて、いいんだろうか。

「ごめんな、ある意味個人情報だよな」

私の考えを察したのか姫川さんは申し訳なさそうな顔をした。

「親父、桜の事になると必死だから」

本当にあの人は私に会いたいんだろうか。

会ってどうしたいんだろう?

「少し考えさせて下さい」

そう言うのが精一杯だった。
< 21 / 22 >

この作品をシェア

pagetop