誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
七 祇園乙部


六月、御陵衛士【ごりょうえじ】は五条橋東詰の長円寺から東山の高台寺へと屯所を移した。


今にも刀に手を掛けんばかりの殺伐とした気を立ち上らせつつ、五条坂を東へ上り、清水坂【きよみずざか】と交わるところで北へと進路を変えて産寧坂【さんねいざか】、二年坂を歩いた。


先頭を任された斎藤と藤堂のすぐ後ろで、伊東が、冗談とも皮肉とも取れる様子でかすかに笑った。



「このような道のりを行くとは、まるで熱心な僧侶か、田舎上がりの物見遊山【ものみゆさん】客のようだ。


少し顔を上げて、見てみるがいい。道の両脇の板塀の向こう、あちらにもこちらにも、由緒ある寺社や仏塔が目に入るだろう。


もう少し晴れやかな気持ちだった折に、きちんと見学し、参拝しておくべきだったな。京都の古い寺院はやはり、風格が違う」


< 121 / 155 >

この作品をシェア

pagetop