誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
容保公との面会は、さして長時間のことでもなかったが、会津藩の駐屯する金戒光明寺を後にしたとき、斎藤はぐったりと疲れ果てていた。
動かぬようにと縛り付けていたはずの心が、あまりにも大きく動いてしまった。
たくさんのことを感じ、思った。
土方に何と報告すればよいだろうか。
永倉や原田たちを探るために、斎藤は彼らと行動を共にしている。
隠し事だらけの胸が詰まったように苦しくて、斎藤は、屯所へ戻ろうとする一行に、すまんと断りを入れた。
「酒を飲んでくる」
馴染みの店などない。
以前、藤堂や沖田と杯を交わした店は、先のどんどん焼けで燃え落ちてしまった。
どこへ行けば、酔える酒が飲めるのだろうか。
斎藤は、行く宛ても思い浮かばぬまま、踵【きびす】を返して歩き出した。