クールな准教授の焦れ恋講義
 期間限定の展示パネルの準備に定期開催のワークショップの会議、今度の調査のアポどりと日程調整して、ホームページもデータ更新をしておかなきゃ。

 私の頭の中は仕事のことでいっぱいいっぱいだった。報告すべきことを頭の中で何度も整理しながら今日も先生の研究室に向かう。途中、見知っている先生と久々に廊下で会って話が盛り上がってしまった。

 大学は春休みに入っているので学生の数はいつもよりも少ない。そしていつも通り研究室のドアをノックするが中から返事はなかった。

 いないのだろうか。先生は少しの用事だけならこまめに研究室の鍵をかけたりしないので所用で席を外しているのかもしれない。とりあえず書類だけでも置かせてもらおうと思って研究室のドアを開けた。

「あら、こんにちは。巴先生は今はいないわよ?」

 いきなり聞こえてきた女性の声に私は目を白黒させた。いつも先生が座っているはずの席には知らない女性が座っている。研究室を間違えたのだろうか、と思ったがそんなはずはない。何より、目の前の女性から先生の名前が告げられたのだから。

「学生さんかしら?」

「いえ。歴史民族資料館に勤務している早川と申します。巴先生には書類をお持ちしたんですが」

「そうだったの。彼、もうすぐ帰ってくると思うけど」

 目の前の女性はストレートの長い髪を腰辺りまで伸ばしている。先生と同年代くらいか、化粧もそこまで濃くはないが、綺麗な人だ。ジャケットにパンツスタイルは座っていても細身の長身なのが分かる。

 そしてなんとなく先生と親しいのが伝わってくる。こうして留守を任されているわけだし。どちら様なのかと訊くことも出来ず、私は部屋を後にしようとした。ドアに手を伸ばそうとしたときにドアノブが先に動く。
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