クールな准教授の焦れ恋講義
「俺んちに来てどうするんだよ」

「鍋しましょう、鍋」

「もうこんな暖かいのにか」

「だって一人で鍋ってなかなかしませんから。ゼミで飲み会したときの鍋とかガスコンロとか一式あるでしょ?」

 ゼミの新年会は演習室で行うのが通例だったがそれらの道具は先生の研究室か自宅においてあるはずだ。淡々と話を詰めていく自分はやけに冷静だったが、その裏では先生の返答が怖くてしょうがなかった。

「あのなぁ」

 呆れたような疲れたような、微妙な表情を先生は見せた。

「俺は誰かを家には上げない主義なんだ。プライベートくらい確保させてくれ。それにお前ももう大人なんだからそんな簡単に男の家に行きたいとか言うなよ」

「……簡単に言うわけないじゃないですか」

 そう小さく呟いた声は研究室の内線の呼び出し音でかき消された。

「もちろん無理強いじゃないから、嫌なら矢野くんに対してはちゃんと断れ。ただ二十五日はこっちも無理なんだ、悪いな」

 手短に告げられて先生は電話をとった。

「はい。ああ、蘭香さん? 例の本ですか、はい。わかりました、じゃぁ」

 相手が西本先生だと分かって私の心はなおも乱される。どうしようもなくて私は先生と目を合わせないまま逃げるように研究室を後にした。
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