あなたの願いを叶えましょう
これはかなり重症だと思って、なるべく顔を合わせないよう彼を避けるようにしていた。

始業のチャイムがなり、野口さんはランチバックを強引に口に押しこむと、ペットボトルのお茶で流し込む。

「朝礼を始めます!」

事業統括部長が大きな声で呼びかけると、グループの社員たちはぞろぞろとグループ担当である常務の席を囲むように集まった。

メガネを掛け、額がかなり後退している人の良さそうな風貌をしたおじさんが、100名以上の社員の前に立つ。

我が東亜電鉄都市事業開発グループのトップである折原常務その人だ。

「本日付で人事部より異動の発表がありましたの」

折原常務は穏やかな口調で切り出すが、グループ全体にピリッとした緊張感が走る。

私はごくりと生唾を飲み込んだ。

「名前を呼ばれた人は前に出て来てください」

司会進行役の事業統括部長が後に続いた。

折原常務は白い紙をかさりと開くと、一人納得したように小さく頷く。

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