あなたの願いを叶えましょう
黒澤氏も自分の失言に気付いたのか、アルカイックスマイルを浮かべたまま黙りこむ。

澄ました顔をしていても、私にマズイ現場を見られて相当動揺しているに違いない。

「あ…あの、私今もんのすっごく酔っ払ってるんですよー」

「一目瞭然だけど」

黒澤氏は喰い気味で言い返して来た。

駅のアナウンスが電車の到着を告げる。

警笛が鳴り、轟々という音と共にホームへ地下鉄が乗り入れる。

「それでもって、お酒を飲むとすぐに記憶を失くすタイプなんです」

「へぇ…」と言って、黒澤氏は訝しげにスッと目を細める。

「じゃ、そう言う事で」

私は立ちあがると、発車ベルが鳴りしきる電車に慌てて駆け込み乗車する。

後ろでドアがバタンと閉まる音が聞こえたのとほぼ同時に電車がゆっくりと動き始めた。

ホームにいる黒澤氏と梁川さんは呆然とした表情で私を見送っている。

私は皇室ファミリーの如く、にこやかに微笑み窓越しに手を振った。
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