あなたの願いを叶えましょう
地下鉄の駅に到着すると目の前を知った顔がふらりと横切る。

傍から見ればやっぱり見目麗しいその顔はちょっとお疲れの様子。

「黒澤波留」

フルネームでその名を呼ぶとビクっと肩を痙攣させて此方に振り向いた。

「…冨樫か」

同じ沿線に住んでいるため、必然的に一緒に帰る事になる。

改札を抜けて駅のホームに並んで立っていると、我が社の運行する東亜目黒線が警笛を鳴らしながら到着した。

週末なので車内は朝のラッシュを思わせるほどの混雑だ。

黒澤氏は私の腕を掴み、入り口付近の手すりの前に立たせる。

周囲に背を向け盾になり、私に圧がかからないよう気づかってくれている。

意地悪ばかり言うけど、こうゆうところは抜かりなく紳士だ。

「沙也香ちゃんと帰ったんじゃないの?」

沙也香ちゃん…とは私の友人が連れて来た友人(とどのつまりはほぼ他人)で黒澤波留と一緒に消えたはずだ。

「やっぱり止めとくって言って帰っちゃった」

「ざまーみろ」

私はフンと鼻で笑う。
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