あなたの願いを叶えましょう
「心配した?」

黒澤波留が小首を傾げて私の顔を覗き込む。

「そこは個人の自由でしょ。詮索する気はない…けど」

けど?と聞き返す黒澤波留は酔っているのか、その大きな目はトロンとしている。

「黒澤氏って、爽やか好青年なのにやる事結構派手だよね」

「冨樫さんは外見派手なのにやる事地味だよね」

私の顔が引きつると、黒澤波留は目元を綻ばせてクスリと笑う。

やっぱりこの男は性格が悪い。

次の駅に停車してドアが開くと、人がまたわんさか乗り込んで来た。

車内は一層混み合ってくる。

手すりに掴まる黒澤波留の手にギュッと血管が浮かび上がった。

ギュウギュウと人混みに押されて、私と黒澤波留の距離がより近づく。

密着するのが嫌なので、胸の前で鞄を抱えた。

「ねえ、冨樫さん。大岡台で降りて飲みなおさない?」

黒澤波留がボソリと耳元で囁く。

ほんのりオレンジの香りがしてこそばゆい。

飲んだ後だっていうのにこうゆうところも抜かりないところもが小憎らしい。
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