聖獣王と千年の恋を

2.壊れた人形




 シェンリュとは客人と侍女として事務的なやり取りしかしていないが、それでも見知った顔に出会えて、メイファンはとりあえずホッとする。
 シェンリュは意外にも笑顔を見せて、話しかけてきた。

「私が席を外している間に庵が魔獣に破壊されてメイファン様がさらわれたと聞いたので心配しておりましたが、ご無事なようで安心しました」

 そういう話になっていたのか。ガーランがでっちあげたのだろう。宮廷内で権力を持つ彼の言うことなら、皆にあっさり信じられたのかもしれない。
 案外、聖獣殿をうろついていた不審人物のワンリーが魔獣だったことになっていそうな気がする。真実を告げてもややこしくなりそうなので、ここは話を合わせておくことにしよう。

 シェンリュは不思議そうに首を傾げて問いかける。

「魔獣に落とされたと言ってましたが、あれからずっと魔獣に捕まってたんですか?」
「あ、あれとは違う魔獣なの。運良く逃げられたんだけど、さっきまた別のに捕まっちゃって……」
「まぁ!」

 メイファンの苦し紛れの言い訳を、シェンリュは疑うこともなく驚いたように目を見張った。

「メイファン様はよほど魔獣に好かれるようですね」
「あんまり嬉しくはありませんけどね」

 苦笑するメイファンを見てシェンリュはクスクス笑う。そして踵を返してメイファンを促した。

「ガーラン様が心配していらっしゃいました。一緒に宮廷にまいりましょう」
「え……」

 困った。シェンリュは知らないのだろうが、ガーランは魔獣王の器となっている。せっかくその手の内から逃げ延びたのに、自らのこのこと出向くわけにはいかない。
 メイファンがその場にとどまっていると、シェンリュから笑顔が消えた。以前見た人形のような無表情でメイファンに尋ねる。

「どうかしましたか?」
「ごめんなさい。私、連れとはぐれてしまって、その方を捜さなければなりません」


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