聖獣王と千年の恋を
シェンリュが微かに眉をひそめる。彼女の体から黒い靄(もや)のようなものが滲み出し始めた。
「連れというのは、あの時牢に収監されていた方ですか? ガーラン様よりそんな犯罪者を優先するなんて……」
「誤解です! 牢に入れられたのは手違いで、ワンリー様は犯罪者ではありません」
確かに立て札を無視して不法侵入はしたけれど、かけられた容疑はまったくの濡れ衣だったのだ。
必死に言い訳をするメイファンを見つめるシェンリュの目は冷たい。しかも先ほどより滲み出す靄が濃くなっている。もしかしてこれがワンリーの言っていた人の陰の気なのだろうか。
今や真っ黒な靄に包まれたシェンリュは、表情も険しくなっていた。目をつり上げ、眉間にしわを寄せてメイファンを睨んでいる。低い声を絞り出すようにシェンリュが言う。
「ガーラン様はあなたのことばかり気にかけていらっしゃる。どうしてあなたは、ガーラン様のお気持ちをわかって差し上げないのですか。ガーラン様はあなただけを愛しておいでなのに」
「そんなこと……」
「気づかなかったのですか? なんて愚かな人」
シェンリュは勘違いをしている。ガーランが気にかけているとすれば、それはメイファンが魔獣の門を抱えているからだ。
「あなたがいなくなった後もガーラン様は懐かしむような愛おしげな目をしてあなたのことを心配なさっています。私は寂しそうなガーラン様を見ていられないのです」
辛そうに顔を歪めてうつむいたシェンリュの目に涙が浮かぶ。もしかして、シェンリュはガーランを好きなのだろうか。
帝の側近という位の高いガーランに、侍女のシェンリュは気後れして想いを告げられないのだろう。胸の内だけで密かに想っているのかも。
でもガーランのことは勘違いに違いない。もしもガーランの話したことがウソではないのだとすれば、ガーランが懐かしく思い出しているのはメイファンではなく亡くした妻のことだ。詳細は伏せるとしても、このくらいは話してもかまわない気がする。でなければ、シェンリュの誤解は解けない。