聖獣王と千年の恋を


「魂を愛するという感覚は、人には理解しがたいものかもしれませんが、ワンリー様は確かにあなたを愛しておいでですよ。これまでも妻となった娘さんたちを分け隔てなく愛しておいででした。シュエルー様だけ特別ということはありません」
「そうですか」

 確かに魂を愛するという感覚はわからない。ワンリーの気持ちは気になるけど、それがどうしてなのかもわからない。妻になる決意はしたものの、自分自身はまだワンリーを愛しているとは言えない。妻がそんなことじゃダメだと思う。

 ワンリーが自信満々で言ったように、そのうち愛するようになるのか、甚だ不安でしょうがない。自分がワンリーを愛せていない理由を、ワンリーの気持ちに求めているような気がしてきた。

 胸につかえているもやもやとしたものを払拭したくて、メイファンはうつむいて吐露する。

「ワンリー様は私を愛していると何度も言ってくれました。私を優しく気遣ってくれます。でも私はワンリー様を愛しているとは言えないんです」

 吐き出したもののなんだか情けなくて涙が滲んできた。すると目の前にそっと手ぬぐいが差し出され、メイファンは顔を上げる。
 困ったように微笑むエンジュと目があった。あわてて手ぬぐいで顔を覆いながら再びうつむく。
 エンジュが静かに口を開いた。

「仕方のないことだと思いますよ。あなたは前世の記憶もなく、ワンリー様とは今日初めて会ったのですから。これから時間をかけてワンリー様のお気持ちを理解していけばいいと思います」
「はい……」

 エンジュの言葉に救われた気がして涙が止まらなくなる。胸のもやもやは完全に消えたわけではないけど、それでも幾分楽にはなった。
 そこへ突然低い声が響く。

「おい、エンジュ。なに泣かせてるんだ」

 ハッとして顔を上げると、入り口からワンリーが入ってきた。これまで穏やかに落ち着いた雰囲気をまとっていたエンジュが、珍しくうろたえた様子であわてて席を立つ。

「ワ、ワンリー様。おかえりなさいませ」
「俺は警護を頼んだはずだが」
「申し訳ありません」


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