お嬢様 × 御曹司
「で、これからどうするわけ?」


私たちは耳元にスマホを当てながら話している。


遠目から見れば電話をしているようにしか見えないだろうとのたけくんの申し出だ。


「ここまで簡単に外に出られるとは思ってなかった。でも、ガードマンの目はきついからな。」


先ほどから目を離すまいとガードマンの二人は私たちを睨みつけるように見守っている。


信頼できる人たちなのだけれど、今だけはそれが困る。


今は、会場を出たところの階段。


あと少し降りれば、普通の道路に面しており、道路を渡ればすく公園だ。


もう、公園は目と鼻の先。


道路へはあと一歩踏み出せば届く。


結局、答えは出ないまま、数分が立った時の事だ。


-チャリン


と、自転車の音がしたと思うと、こちらに向かって歩いてきていた女性のバックを自転車に乗った人が奪ったところだった。


女性は転び、自転車はものすごい勢いで通り過ぎていく。


「ガードマン!」


私はとっさに2人を呼んだ。


一部始終を見てたガードマンの対応は早く、私たちに話しかけたほうが女性の安全確認にあたり、無口だった方が自転車を追いかけた。


そして、私はたけくんに腕を引っ張られながら、自転車が通り過ぎた方と反対方向に走り出した。


ガードマンはそっちの対応で忙しいようで、私たちに気づきもしない。


私の手を引いて走るたけくんがかっこいい。


なんて頼もしい背中だろう。


そんなことを考えながら、ひたすら走った。


私たちは運良く会場からの脱走に成功したんだ。




でも、何か、おかしい。


事がうまく運び過ぎているような気がするのは気のせいだろうか。


「大丈夫か?」


たけくんの問いを聞いて、そんな不安はどこか遠くに行ってしまった。


「うん。」


いまは、一時の自由を楽しむべきなのかもしれない。


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