お嬢様 × 御曹司
思わぬ悲劇 -拉致-
-ギー、ギー、ギー、ギー


「まるっきり子供じゃないか。」


「失礼ね、まったくもう。」


私はブランコで立ち漕ぎをしていた。


昔、よく姉や兄と遊びに来て、無理やりやらされたのを覚えている。


いつも温厚な姉も、この時ばかりは楽しそうに嫌がる私をブランコに乗せていた。


おかげで、ブランコに乗れるようになったのも、事実なんだけど。


たけくんと言えば、ベンチに腰掛けて私を面白そうに眺めている。


いったい何がしたいんだか。


「たけくんは遊ばないの?」


「何言ってるんだ。俺まで遊んだから、何かあったとき対応できないだろう?」


ああ、そうか。


どんなに普通の公園に来たって、私は、私のままなんだ。


私が、ご令嬢とか、お嬢様とかいう肩書きから逃れることは、できないんだ。


私は、普通になれないんだ。


私はブランコから飛び降りる。


「子供が来そう。場所を変えよう。」


今度は私がたけくんの手を取って歩き出す。


今の気持ちを吹き飛ばすように。


ここは、日本で3番目に広い公園。


3番目っていうのが少し物足りないかもしれないけど、都内に3番目に広い公園があるだけですごいと私は思う。


だから、全く人の訪れない神秘的な場所も存在するわけだ。


「ここの湖。来て見たかったんだよね。」


この公園には、4つの湖がある。


ここは、そのうちの一番小さい湖。


『小湖』小さい湖とかいて『ここ』と読む、可愛らしい名前の湖だ。


白い東屋と、新芽の準備をしている葉の付いていない木々。


水色に輝く湖は、少し季節ハズレな気がしたけど、とても綺麗。
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