「君へ」 ~一冊から始まる物語~


でも念のため私がいつも頭痛のために持っている薬を飲ませようとした。

でも唯都は意識が朦朧としていたので上手く薬が飲めなかった。

私は最終手段の口移しをしようと、自分の口に薬と水を含み、唯都の口に近づけた。

吐き出さないように薬が喉を通ったことを確認すると私は唇を離した。

気休めにしかならないかも知れないが飲まないよりはマシだと思う。

そんな私たちを駅で働いている人たちや夛成来先輩が目を凝らして見ていた。

今さらながら恥ずかしさで身が焼けそうだった。


「私たち兄妹なんで皆さんが思ってるような関係じゃないですよ。」


私はその場しのぎで言ったつもりだったが、自分に言い聞かせている気もした。

「じゃあ俺帰るね。」

「夛成来先輩。ありがとうございました。」

「2人には仮があったから。」


そう言って夛成来先輩は優しい笑みを浮かべた。

すごく綺麗な笑顔だった。


「じゃあね。」

「さようなら。」


夛成来先輩は人混みの中に消えていった。

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