「君へ」 ~一冊から始まる物語~

今ここにあるもの



「ダメだ。」

「えっ?」

「巻き込めって言ったろ。」


唯都と都兄は私が嫌がらせを受けている事は自分たちも関係していると思って、私が独りになりたい時は、そっとしておいてくれる。

なのに今日は兄の命日のせいなのかいつもと少し違った。

不覚にも私も優しく微笑む唯都にドキッとしてしまった。

おかしいのは私のほうかもしれない。


やっぱり一緒に帰りたくないと言っていることに気づかれたかと思うと、なんかモヤっとした霧に心が包まれたかのようになった。




『唯都いつからこんな笑顔がかっこよくなったんだろう?』


一瞬脳裏に浮かんだ考えは急いで消した。


「どうした?顔赤いぞ?」


唯都に言われて初めて、自分の顔が赤くなっていることに気づいた。


「な、何でもない!みんなが帰ってからならいいよ。」


やっぱり唯都たちは巻き込みたくないが、これ以上言うとわがままになってしまうので、条件付きで一緒に帰ることを了承した。

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