ばかって言う君が好き。

 二人で作った夕食を食べ終わった後、珍しくお皿を片づける前に彼が話を切り出し始めた。

「倫子、話があるんだ。」
 一瞬、別人かと思った。いたく彼は真剣な表情で、はっきりとした言葉が耳にすっと入ってきた。

「……えっと、お皿片づけてからにしない?」
 彼の雰囲気に飲み込まれそうになりながら、私は穏やかに告げた。

「あ、うん、そうだね。」
 彼がごめん、と短く笑って私のと自分の食器を洗い場にさげた。

私もお醤油とお茶をそれぞれしまって、いつもより急ぎめに4枚のお皿とコップを洗った。その間も彼は私の隣で黙ってそれを見守っていた。

一通り段取りがつくと、また私たちはテーブルの前に座った。
テレビは今日はつけていなかった。

「それでどういうお話かな?」

「うん、あのね倫子。」
  直人の言葉の後、間が少しあいて、彼はポケットに入れていたらしい“それ”をテーブルの上に置いた。

「それって。」
 記憶に新しかった。

彼にもうそのことを聞こうとは思わなかったけれど、やはり頭とは別のところで、私はそれを無意識に覚えていたらしい。ちらっとそれを見ると、リボンをつけた熊が私に優しく笑いかけていた。

「話してくれるの?」
 直人はうなずいた。それから彼は私の中のわだかまりを溶かすように、言葉を選んで話し始めた。

「まず、謝らせてほしい。
ごめん、説明するの遅くなって。いっぱい不安にさせてごめん。あの日、寒い中外に駆けださせてごめん。」

「うん。」

「改めて、これは玄野からバレンタインの時にもらったケーキの中に入ってたものです。

でも好意とかそういうのが書いてあるんじゃなくてね。」

「玄野の友達に、ウェディングの仕事をしてる人がいるらしくて、その相談をいろいろ聞いてるうちに仲良くなって。」

「……うん。」

「だから、この手紙もそういう関連のものっていうか。
まず倫子さんに告げることからでしょ!って書いてあるむしろ背中を押される手紙で……。」
 彼はぐしゃぐしゃと後ろ頭をかいた。

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