ばかって言う君が好き。

「直人、ちょっと……もう!」

「濡れてたんだからいいでしょ?」
 耳元で彼が意地悪にささやいた。
そのままぎゅっと彼が私を後ろから抱きしめる。

「倫子と初お風呂。」

「もう……。」
 背中が少し濡れた程度だったTシャツが、見る影もなくずぶぬれへと化していた。

振り返って彼の表情を見ると、すっかり口元は緩んでいる。

「しょうがないなぁ。」
 ぼそっとつぶやいて、左手ですくったお湯を彼の顔にぴしゃんと当てた。

「わ、こら!」

「お返しだもーん!」
 彼とのお湯のかけあいが始まる。
お風呂場に響く、私たちの笑い声。

「はい、捕まえた。」

「あーあ。」
 彼に捕まった両手は彼にぎゅっと握られて、そのままお湯の中へ消えていった。

ポタン、また滴が床に落ちた。

「私ね、お風呂場の空気感好きなの。」

「へー。」

「シャワーの音、結露でできる天井の滴がポタンって落ちてきたときの音、水のぱしゃんって音。

外部から一気に遮断されたように感じない?」
 私は彼の肩にそのままのけぞるように寄りかかった。

「独特の空気感あるもんね、お風呂って。
小さいころは頭洗うときに、後ろに幽霊とかいそうで怖かったけど。」

「何それ。」
 大真面目な表情で語った彼に私は笑った。

「あ、冗談だと思ってるんだろ?
本当俺、怖かったんだから……。」

「はいはい。」
 私は優しく彼を諭した。

チャポン。
お湯の中に潜り込んでいた私の左手を彼が、水面より上に浮かばせた。左手の薬指に触れ、そのままぎゅっと指を絡ませて握る。

「3月中に挨拶終えたいから、来週倫子のところで再来週俺のところにしよう。」

「……あたしのところが先なの?」

「当然。」

「お母さん怒っちゃうかもよ?」

「俺の親のほうが黙ってないから。」
 ふふふっと私は笑った。

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