ばかって言う君が好き。
「……倫子、今淵に座ってんの?」
「そうだよ。」
背中でバンバンとドアを軽く押した。
真ん中を押すと、扉が開いてしまうタイプのため、本当に軽く。
「ふ~ん。」
ちゃぽんと彼が湯船につかる音が聞こえる。
そのとき私は油断していた。
彼が湯船に入ったと思って。
「あ、お風呂浸かった…
ってぎゃあ!」
勢いよく開かれたドアに、私はごろんと背中からお風呂場に転がった。
彼が手で私を支えてくれて、頭をゴツンと打つ羽目にはならなかったけれど。
「も、もう!直人!」
私は眼を閉じたまま、彼に向き直って言葉を荒げた。
「倫子、眼開けても大丈夫だよ。」
「開けません。」
彼の体をまじまじと見れるほど、免疫はまだついていない。
「いいから開けて。けがしてないか心配だし、顔ちゃんと見せて。」
「っ。」
彼のやさしさに、しぶしぶ目をゆっくり開けると、ちかちかした光が目の前に広がり、それが溶けるにつれて彼の表情が開けていった。
「タオル当ててるから、眼開けても大丈夫でしょ?」
いつの間に持って入っていたのか、彼の腰には白いタオルがまかれていた。
それでも、
「上は、丸見えだからだめだよ…。」
ぼそぼそと告げた私の声に、彼は一瞬固まってハハハっと笑った。
「あーあ、服濡れちゃったね。」
「…直人のせいだもん。」
私は彼の頭を軽く小突いた。
「じゃあいいよね。」
「え?」
ふわっとそのままお姫様だっこされたかと思うと、
「きゃっ!」
ザブンとお湯が大きく揺れた。