ばかって言う君が好き。

 出社前、私は彼の見送りに来ていた。

新幹線の入り口前。
8人ほど列を作る最後尾に並ぶ私達。

「さすがにこの時間帯はまだ寒いね。」

「そうだね。」
 彼が私の手をぎゅっと強く握った。

あたたかい彼の手。
彼のやさしさに心まで温かくなる。

「あと5分か。」
 前に並ぶ、スーツを着たサラリーマンの1人がそうつぶやいた。

せっかくやさしさを貰ったばかりなのに、私って本当弱い。たったその一言で、どこかに残ってた負の感情が再び押し寄せ始めた。

また会える?
向こうに戻っても、連絡してくれる?
またこうして手を繋ぐことはできる―――?

彼がぎゅっとさらに強く手を握った。
私は俯いていた顔をあげ、彼を見上げる。

「すぐだよ。すぐ、こっち来るから、次はどっか出かけようね。」
 微笑んだ彼に、私は笑ってうなずいた。

あー本当この人は……

「直人、ありがとうね。」

「ん?」

「本当ありがとう。」
 彼も私と同じ、きっと不安をたくさん抱いているはず。そんな気持ちを隠して、私を気遣い、笑ってくれたことに気が付かない私ではなかった。

「……ばーか。」
 彼は照れて、ばかなんて言ってるけど。


 アナウンスが鳴りだし、車両の訪れを知らせる。

白いボディ。新幹線好きというわけではないが、そんな私でもかっこよく感じてしまう。

彼を連れていってしまうのに…。

入口が開き、次々に他のお客さんが乗っていく中、彼もゴロゴロとキャリーバッグと共に乗りこむ。

「……。」
 彼も私も何も言わない。
言わないんじゃなくって、言えない。

ただ手を伸ばし、握ったまま。

プルルルルルル―――
「まもなくドアが閉まります~」

……泣くんじゃなくて、
私も彼を安心させるよう、大丈夫だよって伝えるよう、

手を優しく離して。


プシュー、ドアが閉まる。

笑って、

「またね。」
 彼も笑う。

「すぐ会えるよ。」
 ホームからどんどん離れてしまう彼が乗った新幹線。

いつの日か彼が教えてくれた曲の歌詞が脳裏に思い浮かぶ。

大丈夫。
私達、これからも一緒。

< 77 / 165 >

この作品をシェア

pagetop