ばかって言う君が好き。
出社前、私は彼の見送りに来ていた。
新幹線の入り口前。
8人ほど列を作る最後尾に並ぶ私達。
「さすがにこの時間帯はまだ寒いね。」
「そうだね。」
彼が私の手をぎゅっと強く握った。
あたたかい彼の手。
彼のやさしさに心まで温かくなる。
「あと5分か。」
前に並ぶ、スーツを着たサラリーマンの1人がそうつぶやいた。
せっかくやさしさを貰ったばかりなのに、私って本当弱い。たったその一言で、どこかに残ってた負の感情が再び押し寄せ始めた。
また会える?
向こうに戻っても、連絡してくれる?
またこうして手を繋ぐことはできる―――?
彼がぎゅっとさらに強く手を握った。
私は俯いていた顔をあげ、彼を見上げる。
「すぐだよ。すぐ、こっち来るから、次はどっか出かけようね。」
微笑んだ彼に、私は笑ってうなずいた。
あー本当この人は……
「直人、ありがとうね。」
「ん?」
「本当ありがとう。」
彼も私と同じ、きっと不安をたくさん抱いているはず。そんな気持ちを隠して、私を気遣い、笑ってくれたことに気が付かない私ではなかった。
「……ばーか。」
彼は照れて、ばかなんて言ってるけど。
アナウンスが鳴りだし、車両の訪れを知らせる。
白いボディ。新幹線好きというわけではないが、そんな私でもかっこよく感じてしまう。
彼を連れていってしまうのに…。
入口が開き、次々に他のお客さんが乗っていく中、彼もゴロゴロとキャリーバッグと共に乗りこむ。
「……。」
彼も私も何も言わない。
言わないんじゃなくって、言えない。
ただ手を伸ばし、握ったまま。
プルルルルルル―――
「まもなくドアが閉まります~」
……泣くんじゃなくて、
私も彼を安心させるよう、大丈夫だよって伝えるよう、
手を優しく離して。
プシュー、ドアが閉まる。
笑って、
「またね。」
彼も笑う。
「すぐ会えるよ。」
ホームからどんどん離れてしまう彼が乗った新幹線。
いつの日か彼が教えてくれた曲の歌詞が脳裏に思い浮かぶ。
大丈夫。
私達、これからも一緒。