こんにちは、頭蓋さん。
「……よし、無視を決め込もう」
「誰を無視するの?」
「っ⁉」
話しかけられるのを覚悟して部屋を出たときだった。後ろから甘く低い声がして慌てる。
振り向くと予想のとおり、さっき別れたばかりの頭蓋さんが立っていた。
「あ、……えっと」
「え……ま、まさか俺?」
いっそ、そうですよ、とも言いたかったけど、あまりにも弱々しい顔をするものだから。
「……ぐへっ」
「違います。麻野さんのことです」
ちょうど腕を地面と水平に持ち上げたところにある彼の胸をどついてやった。
痛がる頭蓋さんを放って部屋に鍵を掛け、一階に出る階段を降りる。後ろからの急いで私を追いかける足音を聴きながら。
麻野アパートの二階には私と頭蓋さんが住んでいる部屋ともう一つ空き部屋がある。三階は大家の麻野さんが住んでいて、一階は彼が経営するバーになっていた。
外に出るには階段を降りて、バーを突っ切って出口に向かうしかないのだ。
「だから麻野さんが話しかけてきたら無視ですよ、頭蓋さん」
「えー……麻野さん可哀想だけど」