【B】きみのとなり

何度も何度もリフレインしていく。
足音が遠ざかり扉が開いたかと思うと冷たく閉ざされる。



「由貴、出るぞ」


扉の外から聞こえる催促の声。




「橘高さん、安田先生と何かあったんだよね。

 多分、ずっと苦しんでたんだよね。

 私は詳しく事情はわからないけど、
 それでも薄々にでも気がつくものがありました。

 安田先生も同じように苦しんでると思いますよ。
 安田先生には鷹宮の要となる立場もありますから。

 せめて私たちがもっとサポート出来れば良かったんですけどね。

 来週、千尋君が正式に復帰することになりました。
 後、千尋君の従兄弟の伊舎堂さんたちが少し応援に入ってくれることになりました。

 だから安田先生も時間が作れるようになると思うから。
 まだ顔色も良くないから、今日はゆっくり休むんだよ。

 今の橘高さんを見たら安田先生が一番心配されると思うから、
 今週は総師長にも話を通したから自宅静養ね」



氷室先生はそれだけ言い残すと妃彩さんと共に、
ゆっくりと扉の方へと歩いていく。


足音が次第に遠くなって重い扉が閉まる音が微かに聞こえる。



後、一週間かっ。
来週、復活するなら今度こそ退職願受理して貰わなきゃ。



このまま此処にいても兄貴の荷物になるだけなら、
兄貴に迷惑かけるだけならアタシなんか居ない方がいい。


どうでもいい存在なら……居ても居なくてもいい存在なら、
嵩兄に何か言われる前に自分から出て行ったほうが、
これ以上、傷つかなくていいから。




やっと離れられる……この場所から。



どれだけ追い続けても縮まらないこの距離から、
同じ距離でも、同じ場所に居て届かないより、
違う場所に居て届かないほうが心がラクだから。




今週中に荷物引き払わなきゃ。
やること沢山あるなー。



休みなんて貰っても、嵩兄が傍にいるわけでもなし。


例え、このまま大人しく休んで回復しても暇な時間を
持て余すだけだし……いいよね……。


一週間は病院行かなくていいわけだし。
休み明けには退職願出して、もう消えるからさ……。





バイバイ嵩兄、アタシ出ていくから、今週中に……。




今でも、今でも好きなんだよ。
嵩兄……こんなにも傍に居て欲しいのに……。
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