偽りの花嫁


「碧、今朝は早くないか?」


頭がスッポリと埋まってしまいそうな程にフカフカした枕に顔を沈めている旦那様はその枕を愛おしそうに抱きしめていた。

そして、時折横目で私の方を見ながらまた枕に顔を埋もれさせる。


「いいえ、旦那様、もうお目覚めのお時間ですよ」


朝の目覚めはあまり良くない人だが、機嫌が悪いと言うほどでもない。だけど、この後のコーヒーを飲み終わるまで油断は出来ない。

だから、必ず笑顔を忘れずに朝の目覚めの時間を伝える。

そして、ここでコーヒーを淹れる。ほんのり部屋に漂うコーヒーの甘くてほろ苦い香りが旦那様の鼻を突き、心地よい眠りから目覚めさせる。


毎朝、コーヒーを淹れ旦那様を目覚めさせるのは私の仕事だ。ここで旦那様の機嫌を損ねると18歳で終了する家政婦の仕事が危なくなる。

旦那様は自分勝手な人で他人の都合などお構いなしに仕事の采配を振る。借金のカタに人質同然の扱いで仕事をさせてもらっている私などこの人の手にかかれば一溜りもない。


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