偽りの花嫁
私は家政婦

木製のティーワゴンに旦那様専用のコーヒーセットを乗せて旦那様の部屋まで押していく。

部屋の前まで行くと一度ワゴンから手を離し、服に乱れがないかどうかをチェックする。スカートのシワの確認と襟元が曲がっていないか。髪の毛は撥ねていないか、もう一度確認する。

特に問題がないと深呼吸をしてドアを軽く叩く。

ドアを叩いても中からの返事はない。返事がないのはいつもの事。音を立てない様に気を付けながらゆっくりとドアを開け、ティーワゴンを押して室内へと入って行く。

ティーワゴンを室内へ入れると、やはり音を立てない様に静かにゆっくりとドアを閉める。


旦那様の寝室となっているこの部屋はまだカーテンが閉ったままで薄暗い。ティーワゴンをベッド横へと運ぶとカーテンをこれまたゆっくりと開け両サイドをカーテンタッセルで括くる。

カーテンが開くと薄暗かった部屋は朝日が入り込みベッドで眠る旦那様のところまで日が差してしまう。眩しそうに顔を歪める旦那様は機嫌の悪い合図だ。

急いでレースのカーテンを閉じて日差しを和らげる。すると、旦那様の顔から歪みはなくなる。



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