偽りの花嫁
「昨夜は随分遅くまでお起きになってましたからね」
昨夜は旦那様を訪問した綺麗な女の人と客間で随分長い時間話をされていた。私はお客様が見えられた時にコーヒーの準備をしただけで自室へ下がってしまった為、その人がどこの誰でどんな用件でここを訪れたのか何も知ることはなかった。
「そうだった。昨夜は藤堂が来てたんだった」
あの綺麗な女性の名前は『藤堂』と言う人なのだとここでやっと名前の情報を手に入れた。使用人の私は旦那様のお客様の情報を知ることは許されない。せめてこんな風に旦那様の口から発せられる言葉を頼りに情報集めをするしかない。
けれど、もうじきここのお屋敷での家政婦仕事は終了する。そしたらもう旦那様のお世話をする必要はなくなる。この屋敷から出ていくことが出来る。
「......俺に女の客が来るのがそんなに嬉しいのか?」
「滅相もございません!」
「アイツはただの秘書だ。社長秘書の藤堂沙織だ。お前もこれから何度も顔を合わせるだろうから覚えておけ」
「はぁ・・・」
これから何度も顔を合わせる?
旦那様は今年の私の誕生日をお忘れなのだろうか。私は来月の誕生日にこの屋敷を去ることが決まっているのに。