偽りの花嫁

「なんだ、その気のない返事は?」

「いいえ、コーヒーをどうぞ」


朝から珍しく今日は口数の多い旦那様だ。だからと気を許してしまうと私も余計なことを口走ってしまう。だから、ここはいつもの様にコーヒーをおすすめする。

すると、コーヒーの香りには勝てない旦那様はベッドから起き上がると胡坐を組んで座った。何度か大きな欠伸をすると頭を数回掻いて背伸びをする。

毎朝のことだが、やはり、今もあまりこの光景には慣れない。何故なら、旦那様は上半身裸で眠る人だからだ。そして、下半身がどんな格好なのかは見たことがないので分からない。

なので必ず目をティーワゴンへと向ける。そして旦那様がバスローブ姿でベッドから下りてくるまでじっとお辞儀をしたまま待っている。


「相変わらずの変化のないコーヒーだな」

「申し訳ございません」

「お前も飲んでみるといい」


そう言って旦那様は私に飲みかけのコーヒーカップを差し出した。

私は旦那様を怒らせてしまったのだろうかと心臓が止まる程に困惑してしまった。旦那様の顔色を窺うにも旦那様の顔を見つめるなど使用人にはあってはならぬこと。

旦那様が何を思ってこんな仕打ちをされているのか見当もつかなった。

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