デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
「……」

おそるおそる、唇をつける。

「う…苦……薬かな…」

独特の香りと苦みにケホケホとむせながらも、なんとか全部飲みきった。

『お!飲んだか。良かったな』

『……フン』

鼻をならし、さっさとカップを取りあげるアスナイ。

『なあお前、名前は何て言うんだ』

シュリが、横たわる桜に布団をかけてやりながら聞く。

「……?」

当然、何を言われているのか分からず、彼女はまばたきした。

『あー…俺は、シュリだ。シュリ』

自分を指さし、何度か『シュリ』と言った後、片づけをしているアスナイを指さす。

『あいつは、アスナイ』

同じように、名前をくり返す。


(この人…シュリって言うんだ。そして、あの人がアスナイ…)

『俺は別に名前など覚えられたくもないし、覚えたくもない』


そっけなく言う同期を無視して、シュリは桜を指さした。

『お前は?』

(私の名前、聞いてるのよね)

「…桜」

『サクラか。不思議な名だな』

自分の名前を呼び、にこっときれいに笑うシュリに、ドキリと胸が高鳴った。

しかしそれも一瞬で、薬の効果なのかゆっくりと眠気がおそってくる。

(ああ…ダメ…これだけは言っておかないと…)

薄れゆく意識の中、桜は唇を開いた。

「…シュリさん…アスナイさん…助けてくれて、ありがとうございます……」

言葉は通じなくても、声に出して感謝を言いたかった。

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