デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
じき、夜が明ける。

濃紺の空がゆっくりと明るくなり始めた。紫から明るい日の色のグラデーションを作り出そうとしている。

ふっと目を開けて、王は一人、寝台から起き上がった。

もともと寝起きはいい方だが、昨夜は眠りが浅く、わずかな不快感が頭に残った。

いつもとは違う部屋の窓を開けて、朝の空気を吸った。

昼間はもう割と暑いが、今は涼しくて心地良い。


あれから、客用の宮の前を通りたくなくて、深宮に帰る気にはならなかった。

公宮の休憩室で夜を明かしたのだ。

目線を横に動かすと、少し遠くに客用の宮が小さく見えて、王は顔をしかめた。

シュリと睦まじく座って、話をしていたという。

いつもなら自分が座っている彼女の横に、シュリが。

音を立てて、障子を閉じた。

ふと、昨日の別れ際の表情が思い出された。
部屋を出ていこうとする自分の手をそっと取って、何かを慌てて伝えようとしていた。
腹立ちまぎれにそれを振り払って出てきてしまったが。

悲しそうに、すがるように、あの瞳を揺らしていた。

チリッと胸を刺す痛みを、頭を振って無視する。

(……そなたが悪いのだ)

顔を上げ、為政者の表情になる。

身支度のため、手を叩いて女官を呼んだ。

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