デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
その時、少しあわててやってきた桜のサンダルの先が、渡り廊下の床板の隙間に引っかかった。

「わっ!」

「あ!」

前につんのめる彼女を、とっさに抱きとめる。

その髪から、ふわり、上品で高貴な香りがほのかに立った。

残り香だ。


………いつもの彼女からは、しない香り。

ぎくっと腕を震わせ唇を噛んで、すぐに前を歩き出した。

「すみませんでしたアラエさん…」

驚いて大きく息をつくが、前を行く近侍は振り向かない。

「?……アラエさん?」

桜がその素っ気ない態度に戸惑って声をかけるが、聞こえないふりをする。

とても振り返られるような顔ではないことは、自分でもわかっていた。

ムカつく。苛立つ。

(何だ、これ………)

よくわからないその嫌な感情に、いっそう苛立ちながら、アラエは足を速める。

(気の迷いだ。こんな醜い女に、一瞬でも気を許しそうになった自分がムカつくんだ)

そう無理やり思い込んだ。
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