デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
深宮までそのまま歩き、入り口でそっと桜がつないだ手を離した。

「じゃ、行ってくるね」

「ああ」

軽く手を振って、中年の女官に連れられて深宮の奥に消えていく。

カナンは入り口の脇に腰掛けた。このまま数時間待つ。

いつも王を深宮で待つ時は、こうして考え事をしたり、多くの仕事の予定を頭で確認したり、ごくたまに渡り廊下に出て景色を眺めたりしていた。

つい今しがたまで手の中にあった、柔らかな感触を思い出す。

我ながら不思議だった。女性に触れたのに、あのひどい吐き気が起こらなかったから。
自分は、桜を女性として見ていないのだろうか。

いや、そんなはずはない。桜を当初はあんなに忌み嫌ったのだから。

“ありがとう、カナン。カナンがいてくれて良かった”

安心したように自分を見つめた黒い瞳と、自分への感謝の言葉が頭によみがえった。

胸が痛いような、でも甘くしびれるような感覚と、息が止まるような幸福感。

大きく鼻から息を吸って、目を閉じた。

――もっと、触れたい。桜に。
長い髪に、頬に、白い首筋に。
もっと、話したい。
その優しい声を聞きたい。

そんな風に思う自分に驚く。たった3日で、こうも変わるものだろうか。

“これからもずっと女の人が苦手とは限らないじゃないですか。いつかカナンさんも、好きな人が出来るかもですよ”

「……っ」

くしゃ、とその左手が、金髪を乱した。人知れず頬を染めて、視線をさまよわせる。

「……それにしたって、早すぎだ」

けれどもう、受け入れざるをえなかった。
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