デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
すると今度はシュリの手が後ろ髪をつかむ。

「言ってろ」

「………」

「明日の朝には、俺のことしか考えられなくなるようにしてやる」

薄く笑われ、桜がまた背中を震わせた。

それきり押し黙り、馬を進める。

ふと、桜は王都の街がいつもと違うのに気づいた。

いつもならキラキラと街の灯が輝き、人や匂いがごった返す大通りが、明らかに静かだ。

早々に皆店じまいをしていて、せっせと店舗の前を片付けたり、あるいはほうきで丹念に道を掃いている。

「………?」

不思議に思って首をかしげていると、シュリが後ろで言った。

「……なるほどな。明日、王が外出するのか」

王都のこの様子と、午後だというのに慌ただしかった今日の宮中を思い出し、納得した。

「あ…そういえば、おっしゃってました。王都の視察に出るって」

「ふうん?」

シュリは片眉を上げた。

……おかしいな。

そんな大事、昨日の今日のですぐに決めるものではない。
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