僕は君に夏をあげたかった。
「…あ、佐久良くん、あの猫じゃない?」

「本当だ。
…シジミ、おいで」


佐久良くんは閉まっている店の軒下……ちょうど日陰になっているところに行き、シジミに手招きをする。

すると、すぐにシジミは寄ってきた。

しかも佐久良くんの足に甘えるように身体を擦りよせている。

な~な~、と少ししわがれた鳴き声をあげながら。

元飼い猫だけあって、人に慣れているのかもしれない。


「……シジミ、久しぶり。はい、今日のごはん」


一際大きい声で鳴き、シジミは猫缶を食べ始めた。

佐久良くんは優しい眼差しでその様子を見つめている。


「…シジミ、元気だった?少し痩せたんじゃないか?」


その言葉通り、シジミはかなり痩せた猫だった。

毛並みもいいとは言えないし、目の色も濁っているように思える。

病気というよりは歳によるものかもしれないが、老猫にこの暑さはつらいのではないだろうか。

せめて、涼しい家の中で暮らせたらいいのに。

…おじいちゃんに言えば、連れて帰れるのかな。


「……ねえ、佐久良くん。シジミのこと誰も飼おうとしないの?こうしてごはんをあげるだけじゃなくて、お家でお世話してあげたりしないのかな……」


そう聞くと、佐久良くんは首を横に振る。
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