結婚も２度目だからこそ！

演奏開始５分前の予ベルが鳴る。
ベルの音に、慌ててホールの中へと入った。

千席ほどある椅子はほぼ埋まっていて、キョロキョロと空いている席を探しながら歩く。
ちょうど一つだけ空いている席を見つけ、そこへ座った。


気持ちは落ち着いたものの、気分はあまり冴えない。

どうして見ようと思ってしまったんだろう。
見ずに消してしまえば、今こんな気持ちにはなっていなかったはずなのに。

もう別れたじゃない。
もう関係ないじゃない。

せっかく忘れかけていたのに。
せっかく立ち直れそうな気がしたのに。


もうこれ以上、私を振り回すのは止めて……！！


――本ベルが鳴る。
同時に観客席の照明が暗くなり、舞台が明るくなっていく。

その音で、我に返った。


……演奏会が始まる。

こんな気持ちでいてはいけない。今は演奏に集中しなきゃ。
せっかく先輩が私のために吹いてくれると言ってくれたのだから。


早く忘れよう。……ううん、忘れられるはず。
だってこれは、悪い夢。

ただの悪夢でしかないのだから。


舞台に演奏者が入ってくると、観客席から拍手があがる。

演奏者全員が席に座り、拍手が止む。
静かになったのを確認し、クラリネットの男性が立ち上がって、チューニングの音を出す。
それに合わせて演奏者全員が同じ音を吹き、やがてまた静かになる。

そして最後に指揮者が、観客席に顔を向けながら舞台へと現れた。

再び鳴り響く拍手。
私も惜しみない拍手を舞台上の全員に送った。


一曲目は、オープニングに相応しい明るいマーチ。
華やかで重厚な音がホール全体に響き渡る。

久し振りに聴く生音は圧巻だった。
始まりの一音から、グッと引き込まれる。

不思議と聴いているうちに、あれだけ落ち込んでいた気分が上がってくるのが分かった。


心躍るような感覚。


先輩の言う"楽しいプログラム"というのは間違いではなかった。
聴いているだけで、元気になれる。そんな感じがした。