恋の始まりは偽装結婚
 どうしようかと考えているところへ、チャペルの牧師さまがやってきた。

 ここのチャペルの四十代の牧師さまは、プロレスラー並みの体系を持つアフリカ系アメリカ人。


「君たち、彼女に何の用だ? 学校へ行っている時間だろう? 早く学校へ戻りなさい」


 いつもより声を低くしただけで、高校生たちは慌てた様子になり、真っ赤なオープンカーは走り去っていった。


「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ? 座りましょう」


 牧師さまは私に優しく言葉をかけてくれ、さっきまで座っていたベンチに腰を下ろす。


「平気です……」


 牧師さまの気遣いに、目頭が熱くなって、それしか答えられなかった。


「彼は来ないんですね?」

「……急遽帰国することになったと……私はおばあちゃんを喜ばせてあげられない……」


 涙腺は決壊し、涙が頬を伝うと、牧師様は真っ白なハンカチをジャケットのポケットから出して渡してくれる。


「これも神の思し召しですよ。優しい心を持つあなたがいて、おばあさまは幸せです」


 私がこれほどまでに祖母を喜ばせたかったのには理由がある。

 その事情に同情して、チャペル内で写真を撮らせてもらう許可を牧師さまはくれたのだ。

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