恋の始まりは偽装結婚
 脳が委縮してしまうアルツハイマー病の宣告を、祖母が医師から受けたのは半年前。

 それから祖母は頻繁に私の結婚を急かすようになる。


『もう二十七歳なんだから、早く結婚しなさい』


 そう言われても恋人はいない。


『私が施設に入ってしまったら、結愛はひとりになってしまうんだから、あなたを大事にしてくれる人がいたら早く結婚しなさい』


 祖母は私がひとりぼっちになってしまうことをとても気にしていた。

 一昨年、心筋梗塞で亡くなった祖父は、アメリカでお寿司屋さんをやりたいというのが若い頃の夢だった。

 私の父である息子が二十五歳で結婚すると、祖父母は渡米した。

 そのときの年齢は五十歳。

 ラスベガスに知り合いがいて、呼び寄せてくれたと聞いている。

 日本でずっとお寿司を握っていた祖父の夢が五十歳にして叶った。

 私がラスベガスで暮らす祖父母の元へ来たのは、十五歳のとき。

 両親が交通事故で亡くなってしまい、色々な手続きなどで悲しむ時間がない私の元へ祖父母が駆けつけてくれて、葬儀等をすべて取り仕切ってくれた。

 過去、四回しか会ったことのない祖父母は、アメリカで一緒に住もうと言ってくれ、『私たちがついている』と祖母は抱きしめてくれた。

 母方の両親もいなく、祖父母の存在は、ひとりぼっちになってしまった私の胸に安らぎを与えてくれた。


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