恋の始まりは偽装結婚
 英語がほとんど出来ない状態で渡米した私は、寝る間も惜しんで努力した。

 学校が終わると、祖父母の経営するお寿司屋さんを手伝う。

 シニアスクールを経て、州立大学のホテル経営学部を出ると、最高級ホテルの企画課に就職。

 有名な歌手やマジシャンのショーを企画するエンターテインメント企画課に入り、無我夢中で仕事をした。

 世界のエンターテイナーとの仕事は楽しくて、気づけば二十七歳。

 私生活は親しい友人数人がいて、時々パーティーをしたり、キャンプに行ったりしている。

 一日の仕事が終わり、自宅で陽気な祖母と過ごすのが毎日の楽しみだった。

 祖父が亡くなった直後にアルツハイマー病になってしまった大好きな祖母の記憶がしっかりしているうちに、私の幸せな姿を見せてあげたかった。

 祖父の死は突然だったから、喜んでもらえることを何もしてあげられなかった。

 でも祖母にはまだ時間がある……そう思っていたけれど医師の診断では異例に早いスピードで症状は進んでいるとのこと。

 祖母の夢が私の花嫁姿を見ることだから絶対に叶えてあげたかった。

 だから、私は計画を実行しようとしていたのに……。

 自分が亡くなった後を心配する祖母のために、私は愛してくれる人を紹介し、結婚式を挙げた写真を見せようと計画を立てた。

 けれど、今の私には恋人がいない。

< 5 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop